Brand Color – 浪漫篇|青非青の記憶
共有

(ブランドカラー・浪漫篇)
かつて、この東方には“青”とも“緑”とも言い難い、
曖昧にして、しかし凛としたひと筋の色がございました。
それは**青非青(せいひせい)**と呼ばれる、分類の言葉ではなく、詩の名でございます。
◆ 忘れられてゆく、東洋の色
母の生まれた月を象徴する色は 緑 にございます。しかし、西洋が示す「Green(緑)」とは決して同じではございません。
かつて、この地で語られた“緑”は、ただの色名ではなく、天や水、玉(ぎょく)の息づかいを宿し、青とも緑とも断じ得ぬ**ひとつの境(さかい)**を指しておりました。
しかし、西洋色調の流行が押し寄せ、高級ブランドが世界を席巻するにつれ、この曖昧に揺らぐ美は
「青か、緑か」その二択へと押し込められ、多くの人々の感性から、静かに姿を消してゆきました。
青にして青にあらず。
緑にして緑にあらず。
この「余白の美」を名として抱きしめてきたのは、
私たち東方の民でございます。
一方、異国の語にはこの色を一言に尽くせる語彙はございません。世界のどの辞書にも、正確に書き留める語はなく、ただ 東洋の胸の内にのみ咲く色 として、脈々と受け継がれてまいりました。
それは、誇りであり、哀しみであり、そして消えてほしくない祈りでもございます。
——
ゆえに、当ブランドが緑を主たる色として掲げておりますのは、亡き母を偲ぶとともに、
この東洋特有の“青非青”を、再び世に示したいとの願いがあるからにございます。
——
◆ 青の、悠久
“青非青”の歴史を辿れば、その起源は古代へと遡ります。
天を映し、水を抱き、玉(ぎょく)の息づかいに寄り添いながら、この色は文化の最奥へと滲み入りました。
中国・宋の時代、皇帝徽宗は天青の淡をこよなく愛し、宮中にて命じ、**汝窯(じょよう)**という器を焼かせました。
それは
「雨過天青雲破処」
──雨があがり、雲の隙間からのぞく、一瞬の淡い青をまとう器でございました。
深く、静かで、水のように儚いその青は、帝が愛した天の色にして、人が忘却しえぬ東方の祈りの色でございました。
幾代もの玉工・陶工は、この曖昧な青を求め続け、
ただひとしずくの天光を器に宿すため、名もなき時を捧げました。
その色は、「作るもの」ではなく、「祈りて待つもの」であったと伝えられております。
◆ 色の種類——青に宿る表情
“青非青”の系譜には幾つもの名がございます。
天青(てんせい)
雲の割れめから覗く青。
最も静かで澄んだ、天の息。
竹青(ちくせい)
新たに芽吹く竹の色。
生命が秘める薄青の鼓動。
霽青(せいせい)
雨ののちの晴れ、
清明にして透明。
黛青(たいせい)
墨をふくんだ深みの青。
夜明け前の静けさを宿す。
どれも、青でありながら、青とは言い切れぬ、儚さを抱えております。
その曖昧こそが私たち東洋の美であり、世界に誇るべき色の哲学でございます。
◆ いま、再び
西洋の強い色彩に染まる世界で、それでもなお、
この“青非青”を再び掲げようとする者たちが、静かに歩み始めました。
お示しの作品は、その歩みのひとつでございます。
——-
この一点は、東洋本来の浪漫色を現代に取り戻すために
新たに生み出された作品でございます。
——-
艶やかなる銀線細工は東洋の指先が紡ぐ歌。
中心に据えられた石は夜のように深く、ひそやかに青の息を宿しながら、さざ波のように心を震わせます。
青にあらず、
緑にあらず。
ただ「私たちの色」と呼ぶにふさわしい、唯一無二の気配だけがそこにございます。
◆ 祈り
どうか、この色が忘却の海へ沈むことなく、再び息づきますように。
どうか、あなたの胸の奥で静かに灯り続けますように。
そして、この儚き青を愛し、守り、伝えてくださった。すべての人へ深い感謝をこめて。
── Godfrey &c