Brand Color – 浪漫篇|青非青の記憶


(ブランドカラー・浪漫篇)

かつて、この東方には“青”とも“緑”とも言い難い、

曖昧にして、しかし凛としたひと筋の色がございました。


それは**青非青(せいひせい)**と呼ばれる、分類の言葉ではなく、詩の名でございます。


忘れられてゆく、東洋の色


母の生まれた月を象徴する色は にございます。しかし、西洋が示す「Green(緑)」とは決して同じではございません。


かつて、この地で語られた“緑”は、ただの色名ではなく、天や水、玉(ぎょく)の息づかいを宿し、青とも緑とも断じ得ぬ**ひとつの境(さかい)**を指しておりました。


しかし、西洋色調の流行が押し寄せ、高級ブランドが世界を席巻するにつれ、この曖昧に揺らぐ美は

「青か、緑か」その二択へと押し込められ、多くの人々の感性から、静かに姿を消してゆきました。


青にして青にあらず。

緑にして緑にあらず。


この「余白の美」を名として抱きしめてきたのは、

私たち東方の民でございます。


一方、異国の語にはこの色を一言に尽くせる語彙はございません。世界のどの辞書にも、正確に書き留める語はなく、ただ 東洋の胸の内にのみ咲く色 として、脈々と受け継がれてまいりました。


それは、誇りであり、哀しみであり、そして消えてほしくない祈りでもございます。


——

ゆえに、当ブランドが緑を主たる色として掲げておりますのは、亡き母を偲ぶとともに、

この東洋特有の“青非青”を、再び世に示したいとの願いがあるからにございます。

——


青の、悠久


“青非青”の歴史を辿れば、その起源は古代へと遡ります。


天を映し、水を抱き、玉(ぎょく)の息づかいに寄り添いながら、この色は文化の最奥へと滲み入りました。


中国・宋の時代、皇帝徽宗は天青の淡をこよなく愛し、宮中にて命じ、**汝窯(じょよう)**という器を焼かせました。


それは

「雨過天青雲破処」

──雨があがり、雲の隙間からのぞく、一瞬の淡い青をまとう器でございました。


深く、静かで、水のように儚いその青は、帝が愛した天の色にして、人が忘却しえぬ東方の祈りの色でございました。


幾代もの玉工・陶工は、この曖昧な青を求め続け、

ただひとしずくの天光を器に宿すため、名もなき時を捧げました。


その色は、「作るもの」ではなく、「祈りて待つもの」であったと伝えられております。


色の種類——青に宿る表情


“青非青”の系譜には幾つもの名がございます。


天青(てんせい)

雲の割れめから覗く青。

最も静かで澄んだ、天の息。


竹青(ちくせい)

新たに芽吹く竹の色。

生命が秘める薄青の鼓動。


霽青(せいせい)

雨ののちの晴れ、

清明にして透明。


黛青(たいせい)

墨をふくんだ深みの青。

夜明け前の静けさを宿す。


どれも、青でありながら、青とは言い切れぬ、儚さを抱えております。


その曖昧こそが私たち東洋の美であり、世界に誇るべき色の哲学でございます。


いま、再び


西洋の強い色彩に染まる世界で、それでもなお、

この“青非青”を再び掲げようとする者たちが、静かに歩み始めました。


お示しの作品は、その歩みのひとつでございます。

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この一点は、東洋本来の浪漫色を現代に取り戻すために

新たに生み出された作品でございます。

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艶やかなる銀線細工は東洋の指先が紡ぐ歌。

中心に据えられた石は夜のように深く、ひそやかに青の息を宿しながら、さざ波のように心を震わせます。


青にあらず、

緑にあらず。


ただ「私たちの色」と呼ぶにふさわしい、唯一無二の気配だけがそこにございます。


祈り


どうか、この色が忘却の海へ沈むことなく、再び息づきますように。


どうか、あなたの胸の奥で静かに灯り続けますように。


そして、この儚き青を愛し、守り、伝えてくださった。すべての人へ深い感謝をこめて。


── Godfrey &c

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